J-POPのコード進行パターン 4|チャゲ&飛鳥「no no darlin’」

※このページはJ-POPの楽曲解析をしています。
ダイアトニックコードを基本とした考察になりますので、
なんだそれ?という方は当サイト内”作曲の基本”のページを先にご覧下さい。
本文中、ダイアトニックコードはD.T.C.と略しています。

チャゲ&飛鳥「no no darlin’」(題材曲)

虎は死して皮を残す、そして人は…

正直、書くか迷ったアーティストです。
2015年現在、どうコメントするか難しいのは
皆さん想像付くかと思うので…。

同様の理由で扱うか悩むアーティストに
岡村靖幸氏がいるのですが、
彼も楽曲のクオリティは素晴らしいので
いつか思い切りが付けば。

特徴としては、テレビやCDチャートが
音楽の発信元として強かった時代に
洋楽、より詳しく言えばジャズのエッセンスを
J-POP界、と言うよりお茶の間に持ち込んだ
理論的にも非常に高度な楽曲になっています。

このページではAメロ~サビの2パートを説明します。
キーはkey=Ebなので、D.T.C.は以下の様になります。

3声 Eb Ab Bb Cm
4声 Ebmaj7 Fm7 Gm7 Abmaj7 Bb7 Cm7 Dm7(b5)

それでは「no no darlin’」
解析していきましょう!

Aメロ -モードの香りは大人の香り-

まずはAメロ、コード進行はこんな感じ。
キメが入っていますが、イントロも同様です。

Eb Abmaj7|Gm7 C7sus4 |Abmaj7 Gm7 |Fm7 Bb7sus4
Ⅰ Ⅳmaj7|Ⅲm7 Ⅵ7sus4|Ⅳmaj7 Ⅲm7|Ⅱm7 Ⅴ7sus4

この4小節を2回繰り返します。

ポイントは2小節目のモード的なメロディと、
3~4小節目のアッパー・ストラクチャー・トライアド。
メロディに対するコード付けのアプローチ法です。

2小節目のGm7→C7sus4はkey=Fのツーファイブですが、
通常の一時転調ではなく”メロディごと”一時転調しています。
実音で言うとミ=E音が登場しますが、この音はキーの半音上。
元キーからの飛翔感が凄いですが、
コードサウンドで上手く包み込んでいます。

”モード的”というのは、
この時のGm7の振る舞いに有ります。
キーのドレミファソラシドをどの音から始めるかで
同じキーでも音階の印象は変わるのですが、
各音7パターンを総合して”チャーチモード”と呼びます。

この曲では本来key=EbのGm7(Ⅲm7)上で、
音階は3番目のミファソラシドレ(G-Ab-Bb-C-D-Eb-F)
として振る舞うべき所で、
key=FのGm7(Ⅱm7)としてサウンドしています。
使われる音階はkey=Fのレミファソラシド(G-A-Bb-C-D-E-F)。
これによりA音とE音の♭が抜けることになり、
キー外の音が持ち込まれる結果になっています。

”コードで一時転調している最中は別のキーの音が使える”、
これはメロディを書く上で非常に大事な事なので覚えておきましょう。

次に、アッパー・ストラクチャー・トライアドについて。

これは、”上部で構成される3声の和音”という意味です。
当サイト内のコード解説ページで、
4声の和音では上部に別のコードが乗っているという解説をしました。
Ⅰmaj7のドミソシの上部の音はミソシでⅢmになる、
結果としてメジャーコードに暗さが加わる、といった感じで。

この曲では3小節目からのメロディが
Abmaj7(Ab-C-Eb-G)上でG-Eb-C(Cmの構成音)、
Gm7(G-Bb-D-F)上でF-D-Bb(同Bb)、
Fm7(F-Ab-C-F)上でEb-C-Ab(同Ab)と動いています。
見事にコード上部のトライアドを使っていますね。
ただ、これだけではメロとコードが合っている
それだけの話に聞こえてしまうかも知れません。

解説したいのは、
”コードの最低音からの距離でメロの響きが変わる”
という事です。

実験してみましょう。
ピアノか音を打ち込めるソフトで、下記の音を鳴らして下さい。

最低音にドを鳴らしながらドミソ(1、3、5度でⅠの響き)
最低音にラを鳴らしながらドミソ(3、5、7度でⅥm7の響き)
最低音にファを鳴らしながらドミソ(5、7、9度でⅣmaj7(9)の響き)
最低音にレを鳴らしながらドミソ(7、9、11度でⅡ7sus4(9)の響き)

徐々にサウンドがぼやけていくのが判ると思います。
()内のコードネームを追ってみると
明るい3和音、暗い4和音、浮遊感の有る明るい4和音、
最後は明暗の無いsus4のサウンドとなっています。

イメージとして、
最低音が近いと具体的でストレートなサウンド(ロック風)
少し離れるとお洒落で大人なサウンド(洋楽ポップス風)
遠く離れると調性の薄いサウンド(ジャズ、現代クラシック風)
こう覚えておくと良いと思います。

コードの明暗と機能を覚えるのは必須ですが、
更にこの最低音とメロディの距離感を意識すると
作編曲の際のコード付けがぐっとレベルアップすると思います。

サビ -職人が丹念に織りました-

Aメロを2回繰り返した後、すぐサビに入ります。
この辺の展開も洋楽風な感じですね。
コード進行はこんな感じ。

Eb Bb/D |Ab/C Eb/Bb |Abmaj7 Gm7 |Fm7 Bb7sus4 Eb
Ⅰ Ⅴ/3rd|Ⅳ/3rd Ⅰ/5th|Ⅳmaj7 Ⅲm7|Ⅱm7 Ⅴ7sus4 Ⅰ

当サイトの記事を追って読んでいただけてる方なら
カノン進行で有る事にすぐ気付いたのではないでしょうか。
ポイントとしてはメロに対するコードのあしらいと、
7sus4のサウンドの特徴になるかと思います。

サビ2小節目、メロディラインに則って、
Ab/C(Ⅳ/3rd)が置かれています。
これは思い切りメロディが実音ラbで伸ばしている為です。

Aメロの解説でコードサウンドとジャンルの相関を書きましたが、
これは複数のコードが集まったコード進行でも言える事です。
ロック、というよりギター中心の楽曲の場合、
オンコード(1度以外の音を最低音にしたコード)は弾きにくく、
更にテンポも早い事が多いため厳密にメロディとコードを
寄り添わせる行為はしない傾向に有ります。

もちろん知識が無いだけの場合は若干問題が有りますが、
細かいぶつかりに頓着しないサウンドは
実は疾走感やロックらしさに繋がります。
部分的に間違っていても、流れやテンポ次第では充分成立する、
これは「丸の内サディスティック」のページで書いた
トーナル・グラビティ(調の重力)”の力です。

ロック、特に疾走感の有る曲を書く際には、
多少のぶつかりには目をつむり、大雑把なコード付け、
言うなれば引き算のコード付けをする事で、
ロック的なやんちゃ感を表現する事が出来ます。
逆にロック曲が得意な人が大人っぽい曲を書きたい時は、
4声の和音やオンコードを散りばめて
メロとコードを織物の様に丁寧に沿わせる事を意識して下さい。

次に解説するのは7sus4コードについて。
これは近年の音楽では非常にポイントになるコードで、
筆者自身も使い分けに迷う時が有ります。

このコードはセカンダリ・ドミナントも含めた
ドミナントの代理コードになるのですが、
幾つかの表記や弾き方が有り、
それぞれの微妙なサウンドの違いが悩みどころです。
この曲の場合もコード表記の見やすさ優先で
Ⅴ7sus4と書きましたが、正確にはⅡm7/Ⅴだと思います。
ですが、取り敢えず今回はⅤ7sus4を中心に解説します。

まずは元になる3声のⅤsus4、単純にメロディのぶつかりを避けた形。
メロディ内にⅠ=ドの音が強調されていた場合に使うコードです。
割と落ち着いたサウンドで使いやすい。
(key=CならGsus4)

次にⅤ7sus4、この場合はⅤ7に解決すれば問題ないのですが、
単体で伸ばした場合に構成音のソドレファが
Ⅰsus4(ドファソ)のサウンドも鳴らすため、
中心点がぼやけて浮遊感が増えます。
(key=CならG7sus4)

最後に近年多いⅡm7/Ⅴ、またはⅣ/Ⅴのコード。
Ⅱm7またはⅣが鳴った後、最低音だけがⅤに行く形で良く使われます。
7sus4のサウンドにラの音(Ⅱmの5度、Ⅳの3度)が足された形で、
誇張して鳴らすと調性が消えた様な抽象的なサウンドになり
浮遊感を飛び越えて完全に浮遊します。
(key=CならDm7/GまたはF/G)

正直、調性のぼやけ方の差が尋常では無いため、
好みの差も激しいのではと思います。
筆者の場合は基本的にはⅤsus4、気分でⅤ7sus4、
浮遊感が強調されない流れならⅣ/Ⅴと使い分けています。
当然、曲によっては浮遊感を出す為に攻めのⅣ/Ⅴも使いますが。

Ⅱm7/Ⅴ、またはⅣ/Ⅴは近年の音楽に良く登場しますが、
Ⅱm7→Ⅱm7/Ⅴ、またはⅣ→Ⅳ/Ⅴの形で出てきた場合には
Ⅴsus4やⅤ7sus4の違う書き方だと思っておくと
精神衛生上良いのではと思います。

今回の解説、2パートのみにも関わらず
相変わらずの長文になりました。
これは、原曲のサウンドへのこだわりが
とてもクオリティの高いレベルのものだからです。

文章、絵画などと同様に、音楽は残ります。
300年以上前のバッハの音楽を聞き、感動する事が出来る。
この、時代を超える形で記録を残そうとした努力は
人類の最も偉大で崇高な行為の一つです。

読者の方も、作編曲時に妥協してしまう事が時には有ると思います。
理論の勉強が楽しくないと思う事も有ると思います。
ですが、自分が死した後も作品は残っていくものだと思えば
もう一歩の努力、もう一頑張りの動機が出来るのではないでしょうか。

…と言うか、この曲を書いた彼の氏はまだ存命中。
音楽家として、復活を切に希望しています。
過去の作品に罪は無く、未来に再び素晴らしい曲を書ける
その可能性は多分に有るのですから。

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