J-POPのコード進行パターン10|花は咲くプロジェクト「花は咲く」

※このページはJ-POPの楽曲解析をしています。
ダイアトニックコードを基本とした考察になりますので、
なんだそれ?という方は当サイト内”作曲の基本”のページを先にご覧下さい。
本文中、ダイアトニックコードはD.T.C.と略しています。

花は咲くプロジェクト「花は咲く」(コード進行解析:題材)

良い音楽を最も表現できる言葉は、”沈黙”だ。

今回はNHK主導の震災復興ソングを扱います。
作曲は菅野よう子、名前の通り女性の作編曲家。
今の日本の音楽業界を支える重要人物の一人です。

彼女の特徴として、尋常ではなく多作家で有ること、
ジャンルを選ばない事では他に類を見ないことが挙げられます。
映画、アニメ、ゲームなど一作品につき
サントラが3~6枚も出ることもザラという常軌を逸した人物。

更に特筆すべきなのは、
ポップス、俗に言う歌モノでも曲のクオリティが変わらない事。
海外に目を向ければ特に映画やドラマに関わる作編曲家で、
他ジャンル多作家という観点で見習うべき人は割合多くいます。
(ハンス・ジマー、アラン・メンケン、クリストフ・ベックなど)
しかし、彼らは飽くまでも映画音楽の印象が強く
主題歌などは別アーティストに分業する海外ならではのスタイル。

そんな中、彼女の場合はその匙加減が非常に上手く、
”一万年と二千年前から愛してる”で物議を醸した曲を筆頭に
メインタイトルとなる主題歌を書くのもお手の物、
本当に歌モノを書くのが上手い人物で
音楽業界内でのファンも非常に多いです。

今回の楽曲は人の心を癒やす、皆で口ずさめる曲を、という
或る意味では最も作るのが難しいタイプの曲。
上手く解説出来るか正直言って不安ですが、
エッセンスに触れる事が出来れば、と思い取り扱う事にしました。

このページではAメロ前半~Aメロ後半~Bメロ~サビの4つに分けて説明します。
キーはkey=Fで、D.T.C.は以下の様になります。

3声 F Bb C Dm
4声 Fmaj7 Gm7 Am7 Bbmaj7 C7 Dm7 Em7(b5)

それでは「花は咲く」、解析していきましょう!

Aメロ前半

まずはAメロ前半、コード進行はこんな感じ。

F Bbm|F F7 |Bb F/A Gm7 Csus4 |F Csus4 |
Ⅰ Ⅳm|Ⅰ Ⅰ7|Ⅳ Ⅰ/3rd Ⅱm7 Ⅴsus4|Ⅰ Ⅴsus4|

F Bbm|F Bm7(b5) |Bb F/A Gm7 Csus4 |F Csus4
Ⅰ Ⅳm|Ⅰ #Ⅳm7(b5)|Ⅳ Ⅰ/3rd Ⅱm7 Ⅴsus4|Ⅰ Ⅴsus4

ピアノ伴奏の曲ですので、コードはかなり簡略化しています。
…にも関わらず、この美しさ。そして儚さ。

甘い痛みを感じさせるサブドミナント・マイナー(Ⅳm)を経て、
Bb(Ⅳ)からクリシェで下りてF(Ⅰ)に落ち着くのが基本構造ですが
唯一の変化、各段4つ目のコードが肝になるかと思います。

最初はF(Ⅰ)→F7(Ⅰ7)とセカンダリ・ドミナントで、
素直にBb(Ⅳ)に五度進行しています。素直=平和で聴きやすいサウンド。
それに対して二段目ではBm7(b5)(#Ⅳm7(b5))を使っています。
このコードは当サイト内の「GUTS!」のページで解説しましたが、
Ⅳmaj7の最低音が半音上がった形。
Ⅳ系ならではの浮遊感と”m7(b5)”という非常に不安定、不吉な響きが
ガラス細工の様な、壊れてしまいそうなサウンドを生みます。

是非、手元の楽器で両者のサウンドを弾き比べて下さい。
二回目の#Ⅳm7(b5)の時に胸が締め付けられる様な、
Ⅳmの甘い痛みとは違う切なさが感じられるかと思います。

Aメロ後半

続いてAメロ後半、コード進行はこんな感じ。

F |Bb/F C7 |同左|Fsus4 F |
Ⅰ|Ⅳ/5th Ⅴ7|同左|Ⅰsus4 Ⅰ|

F Bbm|Dm F/Eb |Bb F/A Gm7 Csus4 |F Csus4
Ⅰ Ⅳm|Ⅵm Ⅰ/7th|Ⅳ Ⅰ/3rd Ⅱm7 Ⅴsus4|Ⅰ Ⅴsus4

例によってコードはかなり簡略化したのですが、
前半部分の解釈は人によってかなり変わってしまうかなと。
一小節ずつF→Bb/C→C7→Fと弾いても鳴ってしまうのですが、
一応はピアノ伴奏に準拠してみました。
低音でファとドが鳴っている中で、
上の音がファラ(F)、ファシb(Bb)、ミシb(C7)と動く感じ。
最低音が上下しないので非常に穏やかなサウンドです。
その穏やかな響きを受け取ってAメロ前半のパターンの3回目。
また変化が起きていますね。

Dm(Ⅵm)でストレートな切なさを表現した後、
F7の代わりにF/Ebが置かれています。
コードの最低音をコード内の音に置き換える手法を
”転回形”、”オンコード”の様に呼びますが、
今回の場合はF7の7thを最低音にしたサウンド。(F7=F-A-C-Eb)
ただしEb音、つまりキーのシ♭の音が最低音のため、
F7に比べて非常にまろやかなサウンドになっています。
Dm(Ⅵm)の判りやすい切なさの直後に置く事で、
悲劇的になる事を避けている、かなりレベルの高い技術です。

Bメロ

Bメロに入りましょう、コード進行はこんな感じ。

F/C Gm7/C |F/C Gm7/C |
Ⅰ/5th Ⅱm7/Ⅴ|Ⅰ/5th Ⅱm7/Ⅴ| ×4回繰り返し

同じコードを敢えて二度書いたのには意味が有ります。
上で鳴っているピアノのサウンドが
ラド(F)→シ♭レ(Gm≒Bb)→ラド(F≒Am)→ソシ♭(Gm)
上記の様に動いているからです。

このサウンド展開はペダル技法の際に非常に有効な手段。
当サイト内の”恋チュン”の記事で紹介した、
キーの5度の音を連打する”ドミナント・ペダル”が
ここでは使われています。(key=FではC音の連打)
ペダル音が支配している中でD.T.C.をクリシェさせるのは
定番と言っていい常套手段です。
イントロや間奏で使うと世界観が変化するので、
手段として覚えておくと良いと思います。

ただし、この曲では恋チュンの時の様に盛り上げるのではなく、
穏やかな世界観の中に少しだけ風を吹かせている感じです。
それを示すように、全体ではⅤのサウンドをさせない様にしつつ、
後半部分でファミファドと伴奏で繰り返して
熱が高まり過ぎない様に抑えています。

サビ

まずはコード進行。

F Gm7 |F/A Bb|同左|Gm7 Csus4 C |
Ⅰ Ⅱm7|Ⅰ/3rd Ⅳ|同左|Ⅱm7 Ⅴsus4 Ⅴ|

F Gm7 |F/A Bb|同左|Gm7 Csus4 |F
Ⅰ Ⅱm7|Ⅰ/3rd Ⅳ|同左|Ⅱm7 Ⅴsus4|Ⅰ

…シンプルな進行ですが、これ以上無く美しいサウンド。
正直、解説するのが心苦しいです。

上昇クリシェなのは見て取れる筈ですが、
ポイントは開始地点になるかなと。
J-POPのBメロ終わりに良く置かれ、サビに向かう上昇クリシェは
Ⅱm7→Ⅲm7→Ⅳ→Ⅴが基本構造です。
サブドミナント系、つまり浮遊感の有るⅡm7の効果を
上昇クリシェに乗せて最高潮のⅤに行くサウンド。

それに対して、この曲ではⅠから始まってⅣに着地します。
実際に弾くと判りやすいかと思いますが、
扉が開いて、しずしずと進んでいく様な
穏やかなのに力強い進行感を感じませんか?

上下動の激しい進行に乗せて熱情を歌うのではなく
穏やかに、けれど確かに一歩ずつ進んでいく。
傷付いた大地にも、また花は咲くのだから。
そんな荘厳な強さを感じさせてくれます。

感情をテクニックで揺さぶるのは、
言葉を変えれば音楽家の使命の様なものです。
けれど、この曲からは浮ついた小賢しさではなく、
聞く人の為、歌う人の為に最高のコード付けを、という
真摯な気持ちを感じます。

一度、このページのコード解説を見返してみて下さい。
最初のコードは、いつも”Ⅰ”です。
誰しもが曲を書くたび当たり前の様に使う、
穏やかで、平和で、温かいメジャーコードのⅠ。

同業者が羨むような技巧を持ち、
幾らでもテクニックを見せつけられる菅野女史が
Ⅰのコードを何度も繰り返した理由は考えるまでも無い筈です。

複雑にすること、単純にすること、
歌詞や感情に寄り添うこと、敢えて情感を裏切ること。
そんな風に幾度と無く耕した技術の土壌に
或る日ようやく咲く一輪の花。

この曲の音楽面からは、
大地を愛おしみ、人間を愛おしみ、音楽を愛おしみ、
絢爛豪華ではないけれど力強く、そして限りなく優しい、
そんな一輪の花が咲いていく様子が受け取れるのではと思います。

当サイトではJ-POPと洋楽の名曲を
コード理論から解析したページを多数掲載しています。
ぜひ他の楽曲の解説もご覧ください。

contact