J-POPのコード進行パターン 6|嵐「GUTS!」

※このページはJ-POPの楽曲解析をしています。
ダイアトニックコードを基本とした考察になりますので、
なんだそれ?という方は当サイト内”作曲の基本”のページを先にご覧下さい。
本文中、ダイアトニックコードはD.T.C.と略しています。

嵐「GUTS!」(題材曲)

同主調、中近東、本当にアイドル歌謡?

皆さんは紅白歌合戦を筆頭にした、
年末年始の音楽特番をご覧になりますか?
筆者は鍵盤を小脇に出来る限り見る様にしています。
その年の流行曲や主義が一貫している演歌など、
商業音楽の博覧会といった感じですので。

その中でも特に面白いと思うのはアイドル曲です。
歌い上げる、踊れる、世界観が有る、
そういった縛りにとらわれ過ぎず、
面白い曲、売れそうな曲なら採用してしまう無節操感は
音楽家の視点で見た際、非常に楽しめます。

その中でも”国民的”とされるグループの楽曲は
文句なく素晴らしいクオリティを持っています。
「恋するフォーチュンクッキー」で
女性アイドルを取り上げたので
今度は男性アイドルを、という事で
今回は2014年の紅白で明らかに尖っていたこの曲を。

このページではイントロ~Aメロ~Bメロの3つに分けて説明します。
キーはkey=Dなので、D.T.C.は以下の様になります。

3声 D G A Bm
4声 Dmaj7 Em7 F#m7 Gmaj7 A7 Bm7 C#m7(b5)

それでは「GUTS!」、解析していきましょう!

イントロ -キーチェンジは突然に-

Bメジャー3声の爽やかなファンファーレが鳴り響き、
曲が始まる…と思いきやkey=Dにいきなり転調します。
今回は、このkey=Dを中心に解説を始めます。
コードはこんな感じ。

Gmaj7 A |F#m7 Bm7 |Em7 A |D |
Ⅳmaj7 Ⅴ|Ⅲm7 Ⅵm7|Ⅱm7 Ⅴ|Ⅰ|

Gmaj7 A |F#m7 Bm7 |Em7 A |Dsus4 D|
Ⅳmaj7 Ⅴ|Ⅲm7 Ⅵm7|Ⅱm7 Ⅴ|Ⅰsus4 Ⅰ|

この進行はサビでも使われます。
王道進行(逆循)からのツーファイブとsus4なので
当サイトの過去のページを読んだ方なら
解説は必要ないでしょう。
今回は転調技法に焦点を絞ってみます。

イントロのファンファーレからの転調は
”同主転調”という技法になります。
key=Bからkey=Bm(key=D)に行っているため、
同じBという主音を持つ長調と短調という事で
”同主調”と名付けています。

同じ主音を持つという事は同じⅤを持っているという事。
順逆は関係ないので、非常に使いやすい転調先です。
効果としては当然ながら、
長調→短調(key=Bからkey=Bm)は暗く切なく、
短調→長調(key=Bmからkey=B)は明るく爽やかに。

本サイトの丸サディの解説ページ内で
短調(minor key)を”平行調”と呼ぶと書きましたが、
平行調や今回の同主調の様な
固有名詞の付いた転調先は他にも有ります。
5度上がる”属調”と4度上がる”下属調”です。
これらは転調のし易さから”関係調”と言われています。

今回のキー(key=D、key=Bm)でリストアップすると
長調(D)、短調=平行調(Bm)、同主調(Dm)
下属調(G)、属調(A)となります。

長調のⅠをマイナーにしたDmを除くと、
3声のD.T.C.と共通なのにお気付きですか?
Ⅰ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵmの関係の深さが良く判るかと思います。

Aメロ -スケールチェンジも突然に-

前半のコード進行はこんな感じです。

Gmaj7 A |Bm7 |Em7 A |D |
Ⅳmaj7 Ⅴ|Ⅵm7|Ⅱm7 Ⅴ|Ⅰ|

Gmaj7 A |F#m7 Bm7 |Em7 |F#7|
Ⅳmaj7 Ⅴ|Ⅲm7 Ⅵm7|Ⅱm7|Ⅲ7|

技法は王道進行(逆循)とセカンダリ・ドミナント。
落ち着き先のコードの明暗は聞き分け使い分けが
明確に出来る様に。

Gmaj7 A |Bm7 |Em7 A |D |
Ⅳmaj7 Ⅴ|Ⅵm7|Ⅱm7 Ⅴ|Ⅰ|

Gmaj7 A |F#m7 Bm7 |C#7 F#7|Bm
Ⅳmaj7 Ⅴ|Ⅲm7 Ⅵm7|Ⅶ7 Ⅲ7|Ⅵm

…7~8小節目に強烈なのが来ました。
この自由さがアイドル曲の素晴らしさです。
ここでは連続のセカンダリドミナントではなく、
使われるメロディに注目しましょう。

メロディ音とコードサウンドを聞くと、
ド-レ-ミ♭-ファ♯-ソ-ラ♭-シだと思われます。
(筆者独自の解釈ですが、大枠はこんな感じ)
各音の音程は全音-半音-1音半-半音-半音-1音半。

どの音も全音と半音で繋がるドレミ~に対して、
こんなの音階じゃない!と思ってしまうのですが
ドレミ~は西洋の宗教音楽が大元になっています。
そして、世界は西洋だけじゃありません。
今回の音階はジプシー・スケールと呼ばれる音階、
またはアラブのマカーム・ヒジャーズ・カルを
4度から始めたものが近似している様です。

…こんな音階をポップに歌って成立する、
そんな歌い手ってアイドル以外になかなかいないのでは。

Bメロ -半音回避でちょっとお得に-

Bメロに入ると同主転調してkey=Bに。
コード進行はこんな感じ。

B |F#/A# |G#m7|D#m7
Ⅰ|Ⅴ/3rd|Ⅵm7|Ⅲm7

C#m7|D#7|Emaj7 E#m7(b5) |B/A A |F#sus4 F#
Ⅱm7|Ⅲ7|Ⅳmaj7 #Ⅳm7(b5)|Ⅰ bⅦ|Ⅴsus4 Ⅴ

基本構造はカノン進行ですが、
Ⅵm7からⅢm7で落ち着くのが目新しいかなと。
ⅢのコードはⅥに行きたがりますが、
逆にする事で落ち着きを与えています。
後半は順次進行で盛り上げつつ、
ノンダイアトニックのⅢ7と#Ⅳm7(b5)を混ぜています。

この#Ⅳm7(b5)はⅣmaj7の最低音のみを
半音上げた和音ですが、非常に使い勝手が良いです。
今回の様に順次進行で使っても良いですし、
(Ⅴに向かうⅡ7/3rd的な響き)
イントロ、Bメロ、間奏など世界を変えたい時に
冒頭から鳴らしても大丈夫です。

b5音の不吉な音も儚げに聞かせてしまうのは、
流石Ⅳ回りの和音といった感じ。
当サイトの解説では過去にⅣ(9)、Ⅳmを説明しましたが
いずれも気品を感じられたのではと思います。
#Ⅳm7(b5)も同様なので、是非使ってみて下さい。

8小節目のB/A→AはⅠ→♭Ⅶと解析しています。
B/Aは構成音ではⅠ7/7thと捉えたくなるのですが、
7thが最低音の場合はあまり元のコードサウンドはしません。
あくまで繋ぎで使ったと解釈して下さい。
ただ、王道進行などでⅣ→Ⅴと行く所で使ったりすると
盛り上がり過ぎない繊細な効果が得られます。
(key=Cの場合:F→G/F→Em→Am)

♭ⅦはD.T.C.のⅦm7(b5)の最低音を
半音下げて3声にしたコード。
ビートルズが良く使用した事で有名です。

カノン進行の2つ目に入れたり、
(Ⅰ→bⅦ→Ⅵm~)
順次進行の途中に挟んだり、
(Ⅱm7→Ⅲm7→Ⅳ→bⅦ→Ⅴ)
Ⅰの代わりにしてみたりと、
(Ⅱm7→Ⅴ→bⅦ)
響きが柔らかく便利に使えるコードです。

bⅦの使い勝手の良さには理由が有ります。
それはメジャースケール(ドレミ~)の中の
半音のぶつかりを回避したコードだからです。
そして、前述の#Ⅳm7(b5)も同じ構造を持っています。

メジャースケールの音程の並びが
全全半全全全半なのはご存知だと思いますが、
この中の半音程の部分を半音上下させたのが
この2つのコード。

当サイトの丸サディのページで書きましたが、
ケーデンス(終止形)を成立させているのが
ファとシの音です。(ⅣとⅦ)
ケーデンスというのは不安な物が落ち着く形。
この不安な音を取り除いた上で、
他のメジャースケール上の音と組み合わせ
便利に使える浮遊感の有るコードを構築しています。

盛り上げ過ぎてばかりでは疲れる、
と言うのは作編曲全体に言える事なので
肩の力が抜けるコードも覚えておきましょう。

さて、この曲は同主転調のBメロを経て
イントロの進行を使ってサビなのですが、
ここで再びkey=Bからkey=Bm(key=D)に同主転調しています。
が、個人的には転調して欲しくなかったかな、と。

メロとコードをそのままkey=Bに移調して弾いてみると
明るくてジャニーズらしいサビになります。
Bメロは一時的な転調ですよ、という事だと思いますが
一般的にサビで同主短調に行くのは
明るい歌詞には不向きだと思うのです。
切ない思いを表現しているならピッタリですが…。
本当に個人的になのですが実に惜しいなと。

ただ、聞いた時に「ここがこうなら」と思わせるには
その部分以外のクオリティの高さが絶対に必要です。
更に、そのちょっとした不満点や違和感が
逆に耳を惹きつけるポイントになることもしばしば。
今回のアラビアンなメロディもその一つです。

綺麗なコードワークに慣れてきたら
ちょっとした思い切りを自作曲の中に取り入れてみると
他の作編曲家との違いを出せるのではと思います。

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