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※このページはJ-POPの楽曲解析をしています。
ダイアトニックコードを基本とした考察になりますので、
なんだそれ?という方は当サイト内”作曲の基本”のページを先にご覧下さい。
本文中、ダイアトニックコードはD.T.C.と略しています。
L’Arc-en-Ciel「flower」(ラルクアンシエル:フラワー)(題材曲)
- 9thとサブドミナントのもたらすものは -
今や世界中にファンを持つラルクアンシエル、
その楽曲群からボーカル作曲の「flower」を今回は解説します。
作曲者は「これが売れなきゃ世の中か俺が間違ってる」
「(90年代当時の)売れ線を狙っただけ、凄く良い曲とは思ってない」
と発言していますが、往々にして俯瞰的であろうとした時ほど
最後に捨てずに残ったエゴや特徴が際立つ結果になります。
(作編曲、特に他人の曲をいじる際には意識しましょう)
ご多分に漏れず、この曲も見事に”らしさ”が出ている佳曲です。
ボーカルhyde氏が持つ幻想的で茫洋としたロマンチシズムを
コードワークでいかに表現しているか、解析していきましょう。
このページではイントロ~Aメロ~Bメロ~サビの4つに分けて説明します。
キーはkey=Gなので、D.T.C.は以下の様になります。
3声 G C D Em
4声 Gmaj7 Am7 Bm7 Cmaj7 D7 Em7 F#m7(b5)
それでは「flower」
解析していきましょう!
イントロ -いとも容易く行われる耽美な行為-
まずはイントロ。楽曲の世界観がいきなり提示されます。
コード進行はこんな感じ。
C |Em7 Dmaj7 |
Ⅳ|Ⅵm7 Ⅴmaj7|
(ここまでピアノのみ)
Gmaj7 C |同左|同左|Am7 |C
Ⅰmaj7 Ⅳ|同左|同左|Ⅱm7|Ⅳ
ここでのポイントは全てのC(Ⅳ)のコードに
9thという音が含まれている事。
順番に数えていくと9番目の音は2度の音と同一になります。
今回の場合はC(ド)から数えるのでD(レ)の音。
これはadd9(アド・ナイン)というコードで、
メジャーコードに足した場合、サウンドに浮遊感が足されます。
正確な表記はCadd9、またはC(9)と書き、
構成音はC-E-G-D、入れ替えるとC-D-E-Gになります。
9thはメジャーセブンス(maj7)の和音にも足せますが、
この場合は情報量が多いため、少し硬質なサウンドになります。
Am7(Ⅱm7)の箇所も同じくD音が足されていて、
A-C-E-G-D、入れ替えるとA-C-D-E-G…
C(9)とほとんど変わらない事が判ります。
Am7の場合のD音はAm7の1、3、5、7度をまたいで
11番目の音になるので、Am(11)と正確には記します。
また、ピアノイントロの2小節目でⅤmaj7が置かれています。
これは恐らくkey=AのⅣmaj7を狙ったもの。
Ⅴらしくない浮遊感が聞き取れるかと思います。
結果として何が起きてるのか、まとめてみましょう。
・トニックは4声の和音でぼやかしている
・ドミナントはmaj7化してぼやかしている
・サブドミナントはD音を入れて浮遊感を足している
…凄まじく淡いコードサウンドで作られている事が判ります。
4声のトニックとサブドミナントしか無い様なものですから。
Aメロ -典型的に見える、その裏側で-
Aメロに入ります。
コード進行はこんな感じです。
G |D B7/D# |Em G/D |C Dsus4 D
Ⅰ|Ⅴ Ⅲ7/3rd|Ⅵm Ⅰ/5th|Ⅳ Ⅴsus4 Ⅴ
この4小節を2回繰り返します。
セカンダリ・ドミナントのⅢ7が入り、
パッと見は判りやすいコード進行に見えます。
ですが、コードを簡略化してみると
実は淡くサウンドさせる為のテクニックが。
各小節の冒頭のコードだけを拾うと、
Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅳという構図が見えてきます。
これはビートルズにあやかって”レット・イット・ビー進行”、
あるいはU2の「with or without you」にあやかって
”U2進行”と言われているものです。
洋楽では非常にポピュラーで、テイラー・スウィフトの
「We Are Never Ever Getting Back Together」が
近年のヒットでは知られています。
この進行の特徴はメジャー系の進行なのに
”短調に強く進み、長調に弱く進む”という事。
Ⅴ→Ⅵmのドミナント→トニックに対して、
Ⅳ→Ⅰのサブドミナント→トニックが弱いと。
起承転結がズレた主張が薄い感じに聞こえ、
淡々と繰り返すのに向くサウンドを持っています。
「flower」では最低音部を繋ぐ様に
コードが足されていますが、
サウンドは”U2進行”と言って差し支え無いでしょう。
4小節目にドミナントのⅤが有りますが、
登場するのは4拍目でサウンドを主張しているとは言えません。
まだまだ、夢の中の様な茫洋としたサウンドが続いています。
Bメロ -ポップスの秘儀、お洒落マイナー-
Bメロに入ります、コード進行はこんな感じ。
C |Cm |Em |D |C |Cm |Em Em/G |
Ⅳ|Ⅳm|Ⅲm|Ⅴ|Ⅳ|Ⅳm|Ⅲm Ⅲm/3rd|
Cmaj7 Dsus4 |D
Ⅳmaj7 Ⅴsus4|Ⅴ
ここでのポイントはCm(Ⅳm)と、
コードとメロディの相関です。
このノンダイアトニックのⅣmというコード、
特にJ-POPでは必殺といえるコードです。
浮遊感の有るⅣをマイナー化している為、
言葉に出来ない哀愁や
過去の傷を振り返るような甘い切なさを表現します。
筆者は敬意を込めて”お洒落マイナー”と呼んでいますが、
理論的には”サブドミナント・マイナー”が正解。
このお洒落マイナー、
Ⅱm7→Ⅲm7→Ⅳm→Ⅴの様なⅣの代わりも、
Ⅳ→Ⅳm→ⅠといったⅤの代わりも出来る優秀なコード。
サウンドが甘くなって狙った感じが臭うのが玉にキズですが、
D.T.C.で盛り上げたところで裏切る感じで入れると
なんとも素晴らしい味わいが得られます。
Ⅱm7→Ⅲm7→Ⅳ→Ⅴ→Ⅳm(引き伸ばし)→Ⅰの様に。
次にメロディ部分の効果を。
技法として狙ったのか間違いが災い転じたのか
なんとも言えませんが、結果良いサウンドが得られています。
Em(構成音はE-G-B)の部分で
メロディがC音→B音→A音と推移するのですが、
A音は先ほど出てきたm7上の11度(4度)なので問題有りません。
しかし、C音は♭6度でコードに沿っているとは言えません。
仮にEm7(E-G-B-D)を弾いた場合は
上声のG(G-B-D)にぶつかる為、サウンドとしては汚くなります。
このコードにぶつかる音を”アヴォイド・ノート”と言いますが、
ここでは3声のEmでギリギリセーフですし
EmにC音を足すとC-E-G-B…そう、Cmaj7(Ⅳmaj7)です。
例によって浮遊感でお馴染みの。
伴奏が誰も表現していないので悩む所ですが、
Cmaj7/E(Ⅳmaj7/3rd)と解釈しても良いのかも知れません。
いずれにしても、BメロもⅣ中心の淡色の世界でした。
サビ -花はほころび、色づきはじめる-
いよいよサビ、コード進行はこんな感じです。
Em |Dsus4 |C |G/B |Em |Dsus4 |C |G |
Ⅵm|Ⅴsus4|Ⅳ|Ⅰ/3rd|Ⅵm|Ⅴsus4|Ⅳ|Ⅰ|
C |G/B |Am7 |G |C |G/B |Am7 |同左|C |同左
Ⅳ|Ⅰ/3rd|Ⅱm7|Ⅰ|Ⅳ|Ⅰ/3rd|Ⅱm7|同左|Ⅳ|同左
潔いほどに順次進行および5度進行の世界です。
今までの茫洋とした印象は消え、
歌詞の主人公が強い感情を伝えようとしている姿が
コードからもはっきり聞き取れると思います。
Dsus4でベースがF#音(3rd音)を鳴らしてるのは際どいですが、
そんな事も気にならない勢いが有るのではと。
メロディ、歌詞、歌いまわし、コード進行と、
全てから強く情感が伝わる非常に良いサビだと思います。
「flower」の解説、いかがだったでしょうか。
ラルクに限らずhydeが手がけた曲は、
サブドミナントを多用し空中に音を舞わせる様な楽曲が多く
歌詞も抽象的な物や空を描いた物が多数有ります。
ファッションに例えれば、
以前解説した椎名林檎はⅢ7というトゲの有る服飾を、
hydeはサブドミナントを使った空の彼方、
あるいは現実の彼方の、どこか遠い世界の服飾を
着こなしている感じです。
理論や技法を重視するのはもちろん大事ですが、
時にはメロディの機微や歌詞の物語、
歌う人の人物像などの抽象的なイメージを元に
情感を中心にコードを付けるのも良いものです。
その時に理論や技法を上手く使いこなせた時、
はじめて”活用できた”と言えるのではと。
改めて、コード進行とは奥深いものだと痛感します。
当サイトではJ-POPと洋楽の名曲を
コード理論からコード進行解析したページを多数掲載しています。
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