ダイアトニックコードを基本とした考察になりますので、
なんだそれ?という方は当サイト内”作曲の基本”のページを先にご覧下さい。
本文中、ダイアトニックコードはD.T.C.と略しています。
BON JOVI「Livin’ on a Prayer」(コード進行解析題材曲)
シャウト!シャウト!その裏での意外な冷静さ
洋楽のコード解析の初回として選んだのは、かなり古めのこの曲。
このバンドの代表曲で、初めて聞く人でも
ライヴでの盛り上がりは想像付くかと思います。
異様なテンションの高さなので、
既知の方でも理論的に解析した人は少ないのでは。
裏で行われいる意外に計算されたコードワークを
楽しんでもらえればと思います。
このページではAメロ~Bメロ~サビ~大サビの4つに分けて説明します。
キーはkey=Gなので、D.T.C.は以下の様になります。
3声 G C D Em
4声 Gmaj7 Am7 Bm7 Cmaj7 D7 Em7 F#m7(b5)
それでは「Livin’ on a Prayer」、解析していきましょう!
Aメロ -言葉は色々有るけれど…。-
イントロとほぼ同様のコード進行でAメロが始まります。
コード進行はこんな感じ。
Em7 |同左 |同左 |同左 |C |D |Em7 |同左
Ⅵm7|同左 |同左 |同左 |Ⅳ|Ⅴ|Ⅵm7|同左
さすが洋楽ロック、非常にシンプル。
当サイトのJ-POPの記事を読んでいただたいた人は
何処に解説すべき技法が有るのか、と思うかも知れません。
ご心配なく。しっかりと技法が使われています。
”ベース・オスティナート”という技法です。
この曲のイントロ~Aメロを通して、
ベースが実音でミミシレミミシレと弾いています。
(二音目のミはオクターヴ上)
こういったパターンをロックでは”リフ”と呼びます。
リフレインの略で、曲中に何度も繰り返されるフレーズ。
この繰り返しが”複数のコード上で行われた時”、
音楽用語ではオスティナートと言う技法に変わります。
例えば高音でドシソドシソ~と繰り返しながら
G→C→Dsus4→Emと弾いてみて下さい。
なんとも美しい響きが得られると思います。
これがオスティナートです。
そして、オスティナートをベース=低音部で行うと
名称がベース・オスティナートに変わります。
ベースが一定のフレーズを続け、
上モノ、上声の部分が変わっていく形です。
日本語で言うと”執拗低音”…酷い言われ様です。
ただし、正に言葉通り執拗に繰り返す事で
効果が生まれる技法。
当サイトのJ-POP解説「恋チュン」の記事を読んだ人で、
類似の技法に気付いた方が居たらなかなか鋭いかなと。
これは、”ペダル技法”に非常によく似ています。
この曲の場合はⅥm=トニックのフレーズなので
トニック・ペダル、つまり曲を安定させる効果が有ります。
イントロ~Aメロでは敢えて曲の展開を動かさない、
この狙いがしっかりと技法として表現されている訳です。
リフ、オスティナート、ペダルと
幾つかの言葉で表現出来ますが、
しっかりと使い分け出来る様に。
今回の場合はリフ寄りでトニックペダル的ですが、
”ベース・オスティナート”が正解です。
Bメロ -アイドリングも全力で-
いよいよ展開するBメロですが、
こちらもシンプルながら素晴らしいパンチ感。
コード進行は以下。
C D |D Em |C D |D Em |
Ⅳ Ⅴ|Ⅴ Ⅵm|Ⅳ Ⅴ|Ⅴ Ⅵm|
C D |D Em |C |D
Ⅳ Ⅴ|Ⅴ Ⅵm|Ⅳ|Ⅴ
シンコペーションを使いながら、
サブドミナント→ドミナント、ドミナント→トニックと
何も着飾らずに曲を推進させていきます。
そして、この着飾らなさは
メロを厳密にコードが追わない事から来ています。
私見ですが、最近の日本の音楽は真面目過ぎます。
良いメロディと流れが作れたのなら、
コードを捻ってスピート感やパンチ感を殺す意味が
果たしてどこに有るのでしょう。
筆者の行っている作曲講座でも、
無意味なノンダイアトニックは厳しく指摘します。
技法を用いるのは楽曲をより色彩豊かにする為で、
作編曲者のテクニックの見せびらかしでは有りません。
「むしろ、拙なるも巧なることなかれ」
技法に偏り過ぎると自分で感じた時は、
不要なコードを引き算して
曲の骨格を把握してみると良いかと思います。
もう一度、この曲のBメロを聞いてみて下さい。
サビに向けて凄まじい推進力で進んでいます。
イントロ~Aメロのコードを組み換えただけ、なのに。
サビ -it’s a わんこ蕎麦(※曲解)-
いよいよサビに突入。凄まじいテンションの高さ。
コード進行はこんな感じ。
Em C |D |G C |D
Ⅵm Ⅳ|Ⅴ|Ⅰ Ⅳ|Ⅴ *2回繰り返し
相変わらずのシンプルなコード進行で、
Bメロと同様に一小節内のコードチェンジは
8分のシンコペーションで繋げています。
Em(E-G-B)からC(C-E-G)は、
トニック→サブドミナントの穏やかさにプラスして、
構成音が似ているため非常に滑らかに繋がります。
そして、ドミナントのD(Ⅴ)へ。
2小節に一回ドミナントの溜めが起きるので盛り上がって当然。
展開してはザワザワしながら次を待つ。
この感じ、何かに似てる…と思ったら、わんこ蕎麦でした。
器が空く(Ⅵm)→次が来る(Ⅳ)→食べる食べる食べる(Ⅴ)
この繰り返し感、なんとなく伝われば良いのですが。
閑話休題、地味に良い仕事をしているコードが。
3小節目のG(Ⅰ)ですが、
事前にⅥm→Ⅳでトニック→サブドミナントの流れが有り、
Ⅳに5度進行する事で本来の落ち着いた感じが消え
前向きな力強さだけが残った印象。
Ⅵm→Ⅳ→Ⅴを繰り返しながらメロを歌うと
歌えるけれど全体的に暗い印象になるのが良く判る筈です。
歌詞も「それでも俺達は祈りながら生きていく」という
暗く真面目で重たい物になっていますが、
”それでも生きていく”という、
明るいというよりは力強い前向きさ、
その健気さが存分にⅠのコードで表現されています。
大サビ -冷静と情熱のあいだ辺り-
2回目のサビ後にC(Ⅳ)を二小節挟み、
サビのコード進行でギターソロに。
Bメロの最後の4小節の進行(下記)のCメロに。
C D |D Em |C |D
Ⅳ Ⅴ|Ⅴ Ⅵm|Ⅳ|Ⅴ
そして大サビに入るのですが、
ここで従来のkey=Gからkey=Bbに転調します。
サビの進行は従来と一緒で、
Ⅵm→Ⅳ→Ⅴ、Ⅰ→Ⅳ→Ⅴの繰り返し。
数字表記だとGm→Eb→F、Bb→Eb→Fです。
単純に一音半上のキーへの平行移動なのですが、
key=Bbは平行調、つまり短調(minor key)ではkey=Gmなので
同じⅤ(D)を持つ”同主転調”をしています。
当サイトの「GUTS!」の記事で書きましたが、
同主転調はJ-POPに於いては曲調を切なく変えるのに良く使われ、
純粋な平行移動の際は半音上や一音上のキーに行くのが殆ど。
理由は簡単で、2番までのサビで音域的に十分盛り上がっているので
そこから一音半上のキーなんて、狂気の沙汰だからです。
…洋楽は躊躇なくやっちゃいます。
サビの先頭がⅥmである事と、
音域が広い歌い手が居るという条件付きですが、
準備段階が無く一気に転調出来るので意外性は大きい技法かなと。
key=Bb(Gm)でのサビ進行の繰り返しで
フェードアウトして曲は終わりますが、
使われたコードが非常に少ない事にお気付きでしょうか。
イントロ~Aメロ~BメロまでがⅣ、Ⅴ、Ⅵmのみ、
サビではそこにⅠが足されるだけです。
この曲は、当サイト内で主要D.T.C.としている
4つの3声コードのみで出来上がっているのです。
そして実はこのシンプルさが洋楽らしさ、
特にアメリカの洋楽らしさに繋がっています。
メロに対して大雑把なコードを付ける事で、
コードチェンジの速度が減り緩やかな楽曲展開が付きます。
これは俗に”大陸系”と呼ばれているサウンド。
コードの展開の大らかさから広がりを感じこそすれ、
決して不快な感じは受けません。
当サイトの洋楽解析では
この”広がり”の部分を大事にして、
その空いた空間で何が行われているかを
説明していければと思っています。
当サイトではJ-POPと洋楽の名曲を
コード理論から解析したページを多数掲載しています。
ぜひ他の楽曲の解説もご覧ください。