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※このページはJ-POPの楽曲解析をしています。
ダイアトニックコードを基本とした考察になりますので、
なんだそれ?という方は当サイト内”作曲の基本”のページを先にご覧下さい。
本文中、ダイアトニックコードはD.T.C.と略しています。
コード進行解析題材曲:HKT48「12秒」
なんだって出来る。そう、何もしない事だってさ
仕事柄、膨大な量の楽曲を耳にしますが、
執筆当時の2015年に聞いた歌モノ楽曲中
文句無しで一位をあげたいこの曲を今回は解説します。
当サイトの他のページでも嵐やAKB48を紹介した通り、
筆者(プロベーシスト・アレンジャー)はアイドル楽曲を非常に音楽的に楽しんで聞いています。
個人的な比較ですが、ギョッとする割合が多い様に思うのです。
気になった楽曲はすぐに鍵盤を使って簡易解析して
作編曲やレッスンに使えないか探る訳ですが、
この曲には正直嫉妬しました。
技法の一つゝは既に当サイトでも紹介した物。
ですが、組み合わせ方が素晴らしく隙が有りません。
残念ながら真似すると即座にバレる手法なので
「使ってみましょう」とは安易にいえませんが、
折角の機会なのでプロの手技を学んでみましょう。
このページではAメロ~Bメロ~サビの3つに分けて説明します。
キーはkey=Gbなのですが、ギター楽曲のため
半音下げ扱いとして今回はkey=Gで書いていきます。
D.T.C.は以下。
3声 G C D Em
4声 Gmaj7 Am7 Bm7 Cmaj7 D7 Em7 F#m7(b5)
それでは「12秒」
解析していきましょう!
Aメロ -平均的ノンダイアトニックってどれ位?-
Ⅴ一発からカノン進行というイントロからAメロに。
コード進行はこんな感じです。
G B7 |Em D G |C Eb |Am7 D |
Ⅰ Ⅲ7|Ⅵm Ⅴ Ⅰ|Ⅳ bⅥ|Ⅱm7 Ⅴ|
G B7 |Em D G |C Eb |Gsus4 G
Ⅰ Ⅲ7|Ⅵm Ⅴ Ⅰ|Ⅳ bⅥ|Ⅰsus4 Ⅰ
各小節の冒頭のコードを拾うと、
Ⅰ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅱm7という構図が見えてきます。
Ⅲ7と5度進行を取り入れた変則のカノン進行ですね。
最低音が各所に振られる感じがロック感を演出しています。
ジャンルによっては綺麗に繋がないのもテクニック。
B7(Ⅲ7)ではメロディに変化した3度のD#音を取り入れてますが、
自分で曲を書く際は余り気にしないで書きましょう。
”調の重力”が有るので、律儀に沿わせる必要は有りません。
この曲の場合はD#→E音とメロが流れるので採用したのでしょう。
3小節目、7小節目のC(Ⅳ)→Eb(bⅥ)は
C(Ⅳ)→Cm(Ⅳm)の変形版といった感じ。
ただしⅣの視点から考えるとⅣm+bⅥ=Ⅳm7、
つまり上にメジャーコードが乗った形になるので
Ⅳmの儚さは薄れて若干パワフルな響きに。
8小節目でⅠsus4→Ⅰと解決してBメロに向かいますが、
それにしてもこのAメロ、なんともスルリと
ノンダイアトニックを混ぜる所が小粋です。
冒頭B7のD#音が無ければ普通にカノン進行で歌えるメロですから。
ですが、この曲の本気はまだまだ。
Bメロで一気にK点超えな技法が炸裂します。
2015年度筆者グランプリ受賞理由がついに…!
Bメロ -音楽を動かそうと思えば、まず和音を動かせ-
コード進行はこんな感じ。
Cmaj7 Cm |Bm7 Em7 |Am7 Bm7 |C |B7sus4 B7
Ⅳmaj7 Ⅳm|Ⅲm7 Ⅵm7|Ⅱm7 Ⅲm7|Ⅳ|Ⅲ7sus4 Ⅲ7
ここでのポイントはC(Ⅳ)→Cm(Ⅳm)部分の
コードとメロディの相関です。
個人的に、ここでのコードワークは
ポップス技法の頂点の一つだと思います。
メロディは実音でソラシレシラと動き、
(実際にはkey=Gbのため、全て♭が付きます)
ラの部分でCm(Ⅳm)に着地します。
このメロディ自体は、ペンタトニックという
非常に牧歌的、民族的な音階です。
レの上にミを足して、ソラシレミレシラソと上下すると
非常に明るく単純明瞭な響きが聞ける筈です。
その単純なメロを、この曲ではCmaj7上で振る舞わせます。
最低音との対比で言うと、ソ(5度)ラ(6度)シ(7度)レ(9度)。
Ⅳmaj7の響きと相まって非常に繊細な響き、
浮遊感の有る響きになるのを楽器で確認して下さい。
当サイトの「no no darlin’」のページで書きましたが、
メロに対してのコードの最低音との距離で
メロディの印象は大きく変わります。
この曲では、上部にEmを持つ繊細なCmaj7(C-E-G-B)上で、
G(9)(G-A-B-D)に該当するメロディを鳴らしている状態。
それはもう極上の浮遊感が得られて当然です。
そして、解説はまだまだ終わりません。
このメロの着地のラをCm(Ⅳm)に置いたのもポイント。
通常ならD(Ⅴ)の5度の音がA音=ラなので、
着地させればⅣmaj7→Ⅴ→Ⅲm7→Ⅵm7の王道進行が成立します。
そこを敢えてⅣmの6度に着地させた結果、
Ⅳm6という3声+6度のコードが生まれます。
Aメロの解説でⅣm7はパワフルな響きと書きましたが、
Ⅳm6は硬質で壊れそうな響きを持っています。
問題:それは何故?
…まずは構成音を確認してみましょう。
今回のCm6だと下から順番にC-Eb-G-Aとなります。
注目はEbとAの音。ヒントはEbの異名同音はD#という事。
答え:Ⅳm6はB7(B-D#-F#-A)の3度と5度、
つまりⅥmに向かう暗いセカンダリドミナント、
Ⅲ7の不協和音部分を持っているから。
お洒落マイナーと言うべきⅣmの性格に、
Ⅲ7の陰鬱な匂いが足されている。
だから壊れてしまいそうなサウンドを持っている訳です。
極上の浮遊感をⅣで与えておいて、
ガラス細工の様な壊れそうなⅣm6に着地する。
…見事としか言いようが無いです。
平均年齢が若いグループの為だと思いますが、
Aメロ以外は下ハモがしっかり付いて
高域にサウンドが行き過ぎない様にしています。
(若年の内は一般的に声の周波数成分が高い)
ここでも実音でミファ♯ソシソミ♭と下部でハモり、
主旋律と見事に不協和音を奏でています。
もちろん、理論に則った”有り”の不協和音。
書いて改めて思いますが、本当に素晴らしい技法です。
Ⅳmの使い方としては完璧と言って良いでしょう。
先に自分が思い付けなかったのが悔しくて仕方ない。
…と、愚痴を挟んでサビに向かいましょう。
Bメロ終わりはⅢ7を使って切なくサビに向かっています。
サビ -動ける人は、止まれる人。-
いよいよサビ、コード進行はこんな感じです。
C D |Bm7 Em7 |Am7 Bm7 |C B7
Ⅳ Ⅴ|Ⅲm7 Ⅵm7|Ⅱm7 Ⅲm7|Ⅳ Ⅲ7
C D |Bm7 Em7 |Am7 Bm7 |C |同左
Ⅳ Ⅴ|Ⅲm7 Ⅵm7|Ⅱm7 Ⅲm7|Ⅳ|同左
王道進行(逆循)からの順次進行でⅤに行かずⅢ7。
アナライズに慣れた方なら迷う事の無い進行だと思います。
ただ、そんな中にも面白いアイディアが。
8~9小節目、C(Ⅳ)のコードで動きません。
2小節間、何が何でも動きません。
間奏に行くまでⅤの匂いすらさせません。
これは逆に白眉だな、と思いました。
絶対時間で言えばこれ位動かない曲は幾らでも有ります。
しかし、コードの進行感というのは相対的なものなので、
今まで細かい進行で感情を揺らされ続けた耳には
動かない事が逆にスリリングに感じられてしまいます。
本当にコードの使い方が上手いなと感心ひとしきり。
「12秒」の解説いかがだったでしょうか。
この曲、解説したコード技法の点以外にも
編曲者が元曲の出来の良さを理解していて、
余計なセクションを挟まず4分足らずで終わらせるなど
まさに一線級のプロの仕事が散りばめられています。
アイドル好きの方以外は聞く機会が少ないと思いますが、
こと音楽技法の面で言えば熟練の作曲家でも
そうそう作れる物ではない高度な曲です。
それをロックの箱に収め、更にアイドル楽曲の箱に収める、
こういった部分にJ-POPの面白さは有るのではと。
アンテナを他方に広げ、技法を多く学び、
佳曲を量産出来る様に筆者ともども心がけていきましょう。
当サイトではJ-POPと洋楽の名曲を
コード理論から解析したページを多数掲載しています。
ぜひ他の楽曲の解説もご覧ください。